2024年10月のことば

世間のおかげを忘れぬ人も 仏のおかげは忘れがち

私たちが日頃使う「おかげさま」という言葉は、外国語に翻訳しづらい日本語の代表なんだそうです。言葉は文化を背負っているので、背景にある価値観が違うと、うまく説明するのが難しいということでしょう。「あなたのおかげで」と言ったりもしますが、「おかげさま」は「お陰様」ですから、本来は目に見えないはたらきに使う言葉です。何の関係もないように見えるものも、実はつながっているかもしれないという思想です。

仏教では、すべてのものは相互に依存しており、単独で不変なものなどないと考えます。この思想を「空(くう)」と言い、般若心経の一節「色即是空」は大変有名です。「おかげさま」は「空」の思想を色濃く反映してできた言葉です。

仏教が日本に伝来して1400年あまり。その間、あまたの先人たちが命がけで伝え、守り、発展させてきました。そうして仏の教えは、私たちが何気なく使う言葉、習慣、文化、すなわち生活の隅々にまで染み込んで、そのゆりかごの中で私たちは育ったのですね。「おかげさま」を大切にしている私たちは、知らないうちに仏恩(仏のおかげ)を受けていると言えるのではないでしょうか。

日頃の生活で仏の存在を身近に感じることはないかもしれません。しかし、苦しい時つらい時に力強く励ましてくれたり、そっと寄り添ってくれる存在を見つけることがあります。目に映るそれらの姿は、恩師や友人であったり、病という辛い現実であったり、本の中の言葉であったり、自分と同じ悩みをもつドラマやアニメの主人公であったりします。苦しみの中で生きる力をもらうとき、これらの「おかげ」と捉えることができるのは、元をたどればみんな「仏様のおかげ」なのでしょう。