「終活」という言葉もすっかり定着して、お墓や仏壇を次世代にどう引き継ぐか、お寺に相談する人が増えました。大切なことを後回しにせずに決めておけば、安心できますね。
私事ですが、98歳になる父が脳出血になりました。命に別状はないのですが半身に麻痺が残ったので、自宅に戻ることは断念して特養に入所しました。それまでの自宅での生活が一瞬で変わってしまった。父にとってその現実を受け入れるのは辛かったと思います。
そんなことに備えての終活なのですが、案外「心の問題」が抜けているような気がします。高齢者施設に入れば、僧侶と会う機会はなく仏壇もありません。これまで自宅で大切にしてきたもの、そして自分の死を見つめてこれから更に必要になる、心の支えとなる宗教が、施設にはありません。
父は僧侶ですから、これまでの宗教者としての学びや経験を生かして、死と向き合う毎日を淡々と送るでしょう。阿弥陀さんの掛軸を差し入れしたので、毎日お念仏をしているに違いありません。財産やお墓を「終活」するのも大切ですが、元気なうちに問うべきことを問い、聞くべきことを聞いておかなければならない。「心の終活」の必要性を強く感じます。
まことに死せんときは、かねてたのみおきつる妻子も財宝も、わが身には一つも相添うことあるべからず。 蓮如上人『御勧章』