2025年3月のことば

知ってやる犯罪は重いというが 知らずに犯す罪は深いのです

「マリハラ」って何?

セクハラ、パワハラ、カスハラ、モラハラ。毎年のように「ハラスメント」が増えています。そんな中で「マリハラ」という言葉があるのをご存じですか? マリッジハラスメントの略で、 独身者に交際や結婚を必要以上に勧める行為なんだそうです。親戚の集まりで「あなたもそろそろ結婚しなきゃね~」という言葉を聞くアレですね。「まだ子供はできないの?」というのも同じ部類になるでしょう。ひょっとすると、言われた本人には表にしづらい事情や悩みがあって、苦笑いをしながらも辛い思いをしているかもしれません。

「マリハラ」をする人は私の周囲にもいます。他のハラスメントと違うのは、その多くが「いい人」で悪気がないことです。自分にとってこれが幸せだから、周囲にもオススメして幸せになってほしいと願っています。それだけに本人はしつこく、言われる人は拒否しづらく、周囲も止めづらい。善意によって知らないうちに他人を傷つける。私も気づかないうちにしているかもしれません。

法律的には罪に2種類あって、知って犯す罪は「故意」、知らずに犯す罪は「過失」。日本の刑法では故意の犯罪のほうが過失の犯罪よりも重いとされていますが、それは当然のことですね。仏教でも知って犯す罪の方が重いとされます。しかし数ある仏教経典の中には、反対の立場をとるものがあるのです。

ある時お釈迦さまはお弟子に問いかけました。

「悪いことを悪いと知りながら悪をなすのと、悪いことを悪いと知らないで悪をなすのとでは、どちらが罪が重いか」

するとお弟子の一人が「知らないで悪をおこなうより、知っていながら悪をなすほうが罪が深いのではないでしょうか」と答えました。

皆もそう思っているだろうが、そうじゃないのだとおっしゃられ「焼け火箸の譬え」を示されました。

「ここに焼け火箸があって、その焼け火箸をつかまねばならなくなったとしよう。持てば大変なヤケドをすると知っている者は、つかみ方が違うから火傷の程度も軽くすむ。しかしながら焼け火箸の熱さを知らない幼子が持ったとしたら、ギュッと握ってしまい大ヤケドをしてしまうだろう」

『ミリンダ王所問経』

「焼け火箸の譬え」は、自覚がないと歯止めが利かずトコトンやってしまう危険性を説いています。善意であれば繰り返されてさらに被害は大きくなる。しかし悪の自覚があれば、後ろめたさがあってどこかに手加減があるし、反省して改めるという期待が持てるというのです。
「知って犯す罪」がいけないのは当たり前ですが、「知らないで犯す罪」の怖さもまた、私たちは心に刻まねばなりません。「知らずに犯す罪は深い」というのはそのことを言っているのでしょう。後で気づいて「事情を知らなかった」と謝れば許してくれるかもしれません。しかし本人が受けた心の傷はかさぶたのように残るのですから。