2025年10月のことば

鐘は鳴らさなければ鐘ではない

◆歌のチカラ

高校の教員だった時に、夏の高校野球(県大会)で応援生徒の引率をしました。試合後には勝ったチームが校歌を斉唱するのが恒例です。選手が全力で歌うのはもちろんですが、応援生徒もびっくりするくらい大きな声で歌います。とても誇らしげで、歌わずにいられない様子。「よく頑張った、感動をありがとう!」という気持ちが表情に現れるのでしょう。

若い頃アメリカを旅行した時には、プロのアイスホッケーの試合を見に行きました。スケートリンクを360度取り囲んだ巨大な観客席は、満員で熱気にあふれていました。いよいよ試合開始と思いきや、観客全員が起立して国歌を熱唱。「応援するチームは違っても、みんなアメリカが好きやねん!」という感じ。その思いがあふれて、歌わずにいられないのでしょう。海外のスポーツ中継が増えた今ではおなじみの光景ですが、当時はとても驚きました。

ある研究者が「感情と歌」の関係を調査したところ、次のような関係があったそうです。
●喜んでいるときに歌いたくなる人 全体の 80%
効果:歌うと喜びがもっと大きくなる
周りと気持ちを共有できる
●哀しいときに歌いたくなる人 全体の20%
効果:歌うことによって心が落ち着く
●怒っているときに歌いたくなる人 全体の7%
備考:かなりの少数派。根っから歌うことが好きな人なのでしょう。

私の子供たちは「推し活」をしているアイドルのライブ演奏を観に行きます。立って跳ねてペンライトを振って大声を出すと、会場全体が一体になったように興奮するのだそうです。大きな声で歌ったり応援したりすることは、会話とは違い、声を出すこと自体が心と体にプラスの作用をするのですね。周りと一体になれば効果はさらに増幅されるのでしょう。

◆「称名念仏」

私たちは「ナンマンダブツ」と口に出して仏の名を称えます。これを「称名念仏」といいます。そうでない念仏もありまして、仏や仏国土の姿を思い描く瞑想修行も念仏です。むしろ念仏といえばこちらの方が早くからなされていたのですが、日本では浄土系の仏教が盛んになったため称名念仏が一般的です。

口に称える念仏は、私の口から出たものが私の耳にも、隣の耳にも入ります。歌が心を力づけるように、念仏は私の心に喜びをもたらし、隣の人も幸せにするでしょう。また、肉親の死に接した時には、歌が心を癒すように、念仏は哀しみを和らげて辛い別れに向き合う力を与えてくれるでしょう。心で思うのも大切ですが、念仏は口に出してこそありがたいのだと思います。
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み仏の み名を称える わが声は
わが声ながら 尊かりけり
甲斐和里子
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◆大事なことは言葉に出して

皆さんは家庭の中でよく話をするでしょうか。私の母は話し好きでしたが、父は昔風の寡黙な男でしたから、あまり会話がありませんでした。ただ、晩年になってからは「ありがとう」という言葉が増えたことを思い出します。ご勧章に「朝には紅顔あって、夕べには白骨となれる身なり」とある通り、人間の命ははかないものですから、大事なことこそ言葉に出してきちんと伝えようと思います。ちょうどすてきな言葉に出会いましたので最後にご紹介します。
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歌は歌わなければ歌ではない。
愛もまた、人に与えるまで愛ではない。
愛は心に秘めておくために
与えられたのではないのだから。
オスカー・ハマースタイン2世
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